鑁阿寺を訪れたのは足利フラワーパークで藤を観た帰りに立ち寄ったときが最初だった。藤の艶やかさに酔った余韻も残る中で見た寺の雰囲気はその対極にあるようで、戸惑いを禁じ得なかったことを10年ほど前のことではあったが強く覚えている。

寺域を土塁と濠を四方に巡らした姿はそれ自体が結界か、入ることを拒んでいるように感じられた。日本百名城にも名を連ねる鑁阿寺は、元は足利氏の居館であったことを今なお忍ばせている。

足利氏2代目当主義兼が、父足利氏の祖である源義康が建てた居館に、守り本尊であった大日如来を奉納する持仏堂を建立したのを創建とし、3代当主義氏が伽藍を整備し、足利氏の氏寺とした。建久7年(1196)のこと、820年以上、法灯が守られてきている。

真言宗大日派本山、「金剛山 仁王院法華坊鑁阿寺」

濠に懸る反り橋の屋根と重なるように入母屋造、行基葺の屋根、運慶作といわれる仁王像を配する山門がある。正面から見ると反り橋を覆う屋根が山門に置かれた向拝のようで一体に見える。反り橋を渡り山門を見上げると扁額が掛けられている。簡素な額、木板に直接書かれた山号「金剛山」の文字。大らかで筆勢が力強い。宝永4年、300年以上前からここを潜る人々を見守っている。真言宗智山派総本山、京都智積院の化主10世専戒僧正の筆による扁額は入山する者の姿勢を正すようだ。

『扁額』広辞苑によると「門戸、室内などにかけられる細長い額」とある。また国語大辞典には「室内や門戸に掛けられる横長の額」と説明されている。
『扁』は「戸」と「冊」の会意文字で「冊」は古来中国で、天子が皇太子や皇妃等を立てる時や諸侯に封禄や爵位を授ける時に賜った詔をいい、更に「かきつけ」の意味もあるそうだから、何も細長くなくても、横でなくてもいいだろうと、多少牽強付会の謗りも受けようが、私は勝手に解釈している。
「扁額」は掛けられている建物の名であったり、山号、寺号、経典の中の教えなど寺院全体を表わす言葉が多い。日本の「扁額」はお寺の額字に始まり、朝廷から正式に認められた寺には「勅額」が与えられ、「定額寺」と特別に称された。
最初に文書として残るのは「続日本紀」の天平勝宝元(749)年だそうだ。聖武天皇が薨去され、光明皇后との間に生まれた阿倍内親王が女帝、孝謙天皇として即位した年である。年表によれば「三宝の奴」として東大寺大仏を礼拝し、大安寺以下12寺に墾田地を授けている。孫引きである。「元興寺と大安寺の東西南北の門には、その寺の4つの名称が書かれた扁額が掛けられた」と・・・。

お寺の門を潜るとき、ちょっと見上げると扁額がある。本堂にも掛けられている。或は他のお堂にも・・・お寺には扁額が多い。

勅額に出会うことは少ないが、揮毫したした人たちの分野は広い。本山などの高僧、名僧、或は書家であったり文化人であったり。時には政治家も。もちろんそのお寺の住職も。
「下手な字だな」なんて思ってよく見るとその道の大家だったりして・・・面白いものだ。

 横道にそれる。新潟にヘギ蕎麦というのがある。ふのりを練りこんだそばを長方形の器に載せて出してくれる。美味である。この「ヘギ」、もしかすると「扁」に通じるのか。これも牽強付会の類いだろうか。

「扁額漫歩」、扁額に目をやり、ご朱印を頂戴し、境内に咲く季節の花を愛でる。

仏教については無知そのもの。「門前の小僧 習わぬ経を読む」の喩え。そう遠くない時期に三途の川の傍で脱衣婆と会うはずだ。その時に邪険にされぬよう蝸牛のごとき歩みでも少しは覚えめでたくと思っている。

 kenkenと称して近くのお寺を徘徊している。特に系統だって訪れることはない。できれば花が咲いているときがいい。何度も同じお寺に訪れる。お坊さんと或は奥様と。時には訪れた人との一期一会の縁を楽しみにしながら。

さて、明日はどんな縁が待っているだろうか・・・。


 

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山号「金剛山」 寛永4年(1627)  智積院10世 専戒僧正筆

山門

Kenken's

扁額漫歩

お寺の扁額と花の世界

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足利・鑁阿寺(ばんなじ)山門扁額
塩船観音寺 ツツジ 東京都青梅市
茂林寺  /狸 群馬県館林市
満願寺 秋海棠 栃木市出流町
慈眼寺 紫陽花 さいたま市西区
寛永寺 東京都台東区
法善寺 埼玉県長瀞町
清雲寺 埼玉県秩父市
麟祥院 椿 東京都文京区
遊行寺 菖蒲 神奈川県藤沢市
成就院 埼玉県行田市
妙法寺 鷺草 東京都世田谷区
常楽寺 彼岸花 群馬県太田市
吉祥寺  黄葉 埼玉県さいたま市緑区
泰寧寺 紫陽花 群馬県みなかみ町
唐招提寺 奈良県奈良市
海臧寺 神奈川県鎌倉市
 西新井大師 牡丹 東京都足立区

2018年5月30日更新しました

本堂(国宝)

青梅市 塩船観音寺を追加しました

Kenken

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家の門或は玄関に表札がかかっています
庭に或は部屋の中にその折々の花が彩を添えています
お寺にも山門或は本堂に扁額という表札がかかっています
境内にはその季節の花が咲き 訪れる人の目を楽しませてくれます
日常以上旅未満 お寺を漫歩しながら扁額を 花を記憶にとどめます

2016年 夏